夜中に撮った運動会や旅行の動画を見返そうとしたら、真っ黒な画面のまま止まる。音だけ流れて映像が出ない。「このファイルは再生できません」とスマホやPCに突き放される。ファイルサイズはちゃんとあるのに、開けない。ここまで来ると、もう消えたんじゃないかって不安になりますよね。僕もサポート窓口にいた頃、この手の相談を月に何件も受けていました。
結論から言うと、MP4が「壊れて再生できない」のと「データが完全に消えた」のは、実はけっこう違う話です。ファイル自体はSDカードやHDDの中にまだ存在していて、中の構造がおかしくなっているだけ、というケースがかなり多い。だから直せる可能性は十分あります。ただし、今からやることを間違えると、その可能性ごと潰してしまうので、まずそこから話します。
触る前に、絶対にやってほしくないこと
撮影で使ったSDカードやスマホの内部ストレージに、新しく動画を撮ったり写真を追加したりするのはやめてください。壊れたMP4の実体は、記録メディアの中の断片的なデータの集まりです。そこに新しいデータを書き込むと、壊れた部分の修復に必要な情報そのものが上書きされて消えてしまうことがあります。
僕が窓口にいた頃、「とりあえずもう1本撮ってみたら直るかも」と試してしまって、逆に修復不能になった人を何人も見てきました。気持ちはわかるんです、目の前で撮り直せば安心するから。でも壊れた動画に関しては逆効果になることが多い。
まずやるべきなのは、壊れたMP4ファイルをPCにコピーして、別の場所(別のフォルダや別のドライブ)に保存しておくことです。作業は必ずこのコピーに対して行う。元のSDカードやスマホ本体はそれ以上いじらない、これが最初の一歩です。
なぜMP4は「再生できるのに壊れる」のか
MP4ファイルには「moov」と呼ばれる、動画全体の再生位置や構造を管理する部分があります。ここが撮影中の電源断や、録画中にSDカードを抜いてしまうといったトラブルで書き込み途中のまま止まると、映像データ自体は残っているのに、どこから再生すればいいのかをプレイヤーが判断できなくなる。結果、ファイルサイズは正常なのに開けない、真っ黒、音だけ、といった症状が出ます。
逆に言うと、映像データそのものは無事なケースが多いんですよね。だから「moov」部分を修復したり、正常な同種のファイルから構造情報を借りてきたりすることで、直ることがあります。ここが写真データの破損とはちょっと違うところです。
無料ソフトで試せる範囲
まず一番手軽なのは、VLCメディアプレイヤーでの再生確認です。標準のプレイヤーで開けなくても、VLCなら軽度の破損なら再生できてしまうことがあります。VLCの設定画面の「入力/コーデック」あたりに、壊れたファイルの修復を試みるようなオプションがあるので、それをオンにすると通ることもある。ダメ元で試す価値はあると思います。
これで開かない場合、次に試すのが専用の修復ソフトです。有名どころだとStellar Repair for VideoやWondershare Repairit、DivFix++あたりが個人でもよく使われています。手順としては、
壊れたMP4ファイル(コピーしたもの)を修復ソフトに読み込ませて、解析、修復実行、修復後のファイルを別名で保存、という流れがほとんどです。ソフトによっては無料版は「ここまで直りそうです」というプレビューだけで、実際の書き出しは有料版が必要というパターンもあります。無料版でどこまでできるかは試してみないとわからない部分が正直あります。
もう一つ、意外と知られていないんですが、同じカメラやスマホで撮った「正常に再生できるMP4」があると、修復の成功率が上がることがあります。壊れたファイルの構造情報を、正常なファイルの構造から推測して補完する仕組みのソフトがあるからです。もし同じ端末で撮った他の動画が残っていたら、それも用意しておくと修復ソフトで使える場面があります。
SDカード自体に問題がある場合は話が別
ここまでは「ファイルの中身が壊れている」前提の話でした。でも、SDカードやスマホの内部ストレージ自体を読み込むとエラーが出る、パソコンが認識しない、カードリーダーに差しても反応がない、といった場合は少し話が変わってきます。これはファイルの破損というより、記録メディア側の不具合の可能性が高い。
この場合、SDカードの状態によっては SDカード認識しない時の復元方法、業者に出す前の判断基準 で書いたような手順の方が近道です。ドライブレコーダーのSDカードで似た症状が出ている方は ドラレコSDカードの映像が消えた、復元より先にやること も参考になると思います。
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異音・水没・熱・変形があるなら、自分でいじらない
これは物理故障の話です。SDカードが割れている、水に濡れた、スマホやカメラ本体が熱を持って異臭がする、HDDから「カチカチ」と異音がする。こういう症状がある場合は、無料ソフトでの修復は諦めて、最初から専門業者に相談することを強くすすめます。
物理的に壊れている媒体にソフトウェアでアクセスし続けると、内部の状態がさらに悪化して、本来なら復旧できたはずのデータまで取り出せなくなることがあります。僕が見てきた中でも、「異音がしてたけど、とりあえず自分でソフトを試してから業者に相談しようと思った」という順番で、結果的に状態が悪化してから持ち込まれるケースが一番もったいなかった。異常を感じたら、それ以上通電させずにそのまま業者に見せる、というのが一番安全です。
業者に相談する場合の目安
論理的な破損(ファイル構造だけがおかしい)であれば、データ復旧業者の料金は数万円くらいからで、内容や容量によっては10万円を超えることもあると言われています。物理障害が絡むとさらに高くなる傾向があるようです。ただこれは本当にケースバイケースで、症状や媒体の種類、緊急度によって大きく変わるので、正直「これくらい」と一概には言いにくい部分があります。
多くの業者は無料診断・無料見積もりをやっているので、自分で試して直らなかった場合や、物理的な異常がある場合は、まず見積もりだけ取ってみるのがいいと思います。見積もりを見た上で高いと感じたら断ればいいだけの話なので、相談すること自体にリスクはあまりありません。
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どこまで自分でやって、どこから任せるか
正直に言うと、僕自身、修復ソフトで直った動画もあれば、何を試しても開けなかった動画もあります。「必ず直る」とは言えないのが正直なところです。moovアトムの破損具合や、そもそもどれくらいのデータが上書きされずに残っているかによって、結果は本当に変わります。
自分で試せることは、コピーを取ってからVLCで確認、それでダメなら無料の修復ソフトを試す、正常な同種ファイルがあれば併用する、ここまでです。ここで直らなかった、もしくは媒体自体に物理的な異常がある、そういう場合は無理に粘らずに一度プロの目を通す価値はあると思います。データ復旧全体の自力対応の限界については データ復旧が自分でできる範囲と限界、業者に切り替える基準 にも書いているので、あわせて見てもらえたらと思います。
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とりあえず今夜できることは、壊れた動画があるSDカードやスマホに新しいデータを一切追加しないこと。それだけ守っておけば、後からどんな方法を選んでも、可能性を潰さずに済みます。
症状が違うなら、こちらを読む
自分で試していい状態と、今すぐ手を止める状態
症状が違えば初動も違う。以下は全記事共通の線引きである。迷ったら通電を止める側を選ぶ。
自分で試してよい(下の全てに当てはまる場合のみ)
- 異音がしない。カチカチ・ジジジ・カラカラいずれも鳴っていない
- 焦げ臭くない。煙は出ていない
- 水に濡れていない。落下させていない
- 機器自体はパソコンから見えている(認識はする)
今すぐ電源を切り、通電をやめる(一つでも当てはまるなら)
- カチカチ・ジジジ・カラカラなどの異音がする
- 焦げ臭い。煙が出た。基板が変色している
- 水没した。湿っている(乾かす目的でも通電しない)
- 落下・衝撃のあとに認識しなくなった
- RAID/NASでリビルドに失敗した
この状態でやってはいけない操作
- 再起動と抜き差しの繰り返し。通電のたびに状態は悪くなる
- chkdsk・フォーマット・修復ツールの実行
- 元の機器への上書き保存・復元先に元の機器を指定すること
復旧の可否は状態次第であり、可否も費用も診断しないと分からない。ここで保証はしない。
判断のもとにしている公的な情報源
このサイトについて
この記事を書いた人
真壁
データ復旧たすけ隊編集長 / 元フィールドエンジニア25年
メーカーのフィールドエンジニアを25年。工場や病院のサーバ室で、止まった機械と青ざめた担当者を前にしてきた。現場で学んだのは一つ。壊れた機械より、慌てた人間の操作のほうがデータを殺す。再起動、抜き差し、通電したままの放置。良かれと思ってやる操作で、戻ったはずのデータが戻らなくなる。だからここでは、理由より先に「今すぐやめること」を書く。復旧の保証はしない。悪化させない手順だけは断定する。
