コーヒーだったか、それとも麦茶だったか。キーボードの隙間からじわっと染み込んでいくのを見た瞬間、頭が真っ白になったと思います。時計を見たら深夜1時とか2時とか、そんな時間なんじゃないでしょうか。明日提出の資料が入ってる、家族の写真も入ってる、でも今すぐ何をすればいいのか分からない。とりあえずスマホで検索窓を開いた、その状態、僕はサポート窓口時代に電話越しで何十回も聞いてきました。
まず落ち着いてほしいのは、こぼした直後の数十秒でその後の運命がある程度決まるということです。逆に言うと、今からでも間に合う可能性はまだあります。焦って変なことをしなければ、です。
電源が入っていたら、とにかく切る。入っていなければ絶対に入れない
これが一番大事な話なので最初に書きます。
もし今キーボードの上に液体が乗った状態でPCが起動しているなら、シャットダウンの手順を踏んでいる時間はありません。電源ボタンを長押しして強制的に切ってください。通電したまま液体が基板やコネクタに達すると、ショートが起きて損傷が一気に広がります。データが無事だった部分まで巻き添えになることもある。
逆に、こぼした直後にとっさに電源を切った、あるいはもともとスリープ中だった、という場合。ここで「大丈夫か試しに起動してみよう」は絶対にやらないでください。液体が完全に乾いていない状態で通電すると、乾いていれば問題なかったはずの回路までショートさせてしまいます。僕が窓口にいた頃、こぼした直後に慌てて起動確認をしてしまい、乾燥待てば助かったかもしれないデータまで失った、という相談は正直少なくありませんでした。
バッテリーが着脱式のモデルなら外してください。最近のノートは内蔵バッテリーがほとんどなので、その場合は電源ボタン長押しでの強制シャットダウンだけで大丈夫です。ACアダプタは即座に抜いてください。
こぼしたのがただの水ではなく、コーヒーや紅茶、ジュースのような糖分・塩分を含む飲み物だった場合は、少し事情が変わります。これは後半で触れます。
逆さにして、開いて、そのまま「触らない時間」を作る
電源を切ったら、ノートPCを逆さV字(テントみたいな形)に開いて置きます。キーボード面を下向きにして、液体が重力で外側に流れ出るようにする。ティッシュや布で表面の水気だけは軽く拭き取ってもいいですが、隙間に綿棒を突っ込んで奥まで拭こうとするのはやめてください。かえって液体を内部に押し込むことがあります。
ドライヤーの熱風もNGです。表面は乾いたように見えても、内部の水分が熱で気化して結露のように別の場所に再付着したり、逆に熱でコネクタのゴムパッキンや樹脂部品が変形することもあります。米びつに埋める、という昔ながらの方法も、正直効果は限定的だと僕は思っています(米の粉が内部に入り込むデメリットの方が気になる)。
一番現実的なのは、風通しのいい室内で最低でも24時間、できれば2〜3日、電源を入れずにそのまま乾燥させることです。急いでいる気持ちは痛いほど分かりますが、ここで急いで壊すと元も子もありません。
乾燥後、電源を入れる前に確認したいこと
数日置いた後、電源を入れる前にできることが一つあります。可能であれば裏蓋を開けて(メーカー保証を気にしないなら、ですが)、内部に液体の跡や腐食、変色がないか目視で確認する方法です。これは正直ハードルが高いので、無理にやらなくても構いません。
電源を入れてみる場合は、必ずACアダプタは繋がずバッテリーのみ、あるいは逆にバッテリーを外してACのみ、という形で試す人もいますが、これは自己責任の範囲です。起動した瞬間に画面が映る、ファンが回る、というだけでもひとまず安心材料にはなります。
ただ、ここで一つはっきり言っておきたいのは、「起動した=データも全部無事」ではないということです。ストレージ(SSDやHDD)にダメージが及んでいる場合、起動はするけど特定のフォルダが開けない、動作が異様に重い、といった形で後から症状が出ることがあります。心配な場合は起動できた直後に、大事なファイルだけでも外付けHDDやUSBメモリにコピーしておくと安心です。この段階での自衛策としては十分意味があります。
起動しない・異音・変色があるなら、そこから先は業者の領域
ここからが線引きの話です。
電源を入れても画面が真っ暗、うんともすんとも言わない。焦げたような匂いがする。キーボードの一部が変色している、あるいはベタつきが取れない。ファンから普段と違う音がする。こういうサインが一つでもあるなら、それ以上自分でいじるのはリスクが高いと僕は思います。
特に、こぼしたのがコーヒーや炭酸飲料、ジュースだった場合は要注意です。純粋な水と違って、糖分や塩分は乾いた後も基板の表面に残り続けて、じわじわと腐食を進めます。1週間前は起動していたのに、1ヶ月後に突然動かなくなった、というケースも実際に見聞きしたことがあります。糖分入りの液体をこぼした場合は、たとえ今動いていても早めに専門業者に見てもらうことをおすすめします。
自分でストレージ(SSD/HDD)だけを取り出して、外付けケースに入れて他のPCからデータを吸い出す、という手もあります。ノート本体の基板が死んでいても、ストレージ自体が無事なら意外とこの方法で助かることも多いです。ただし、これは分解の知識がある人向けです。不慣れなまま分解して静電気やコネクタ破損でストレージ側まで壊してしまうと、それこそ取り返しがつきません。この境界線についてはパソコン起動しないデータ取り出し、まず確認すべき初動と手順やデータ復旧が自分でできる範囲と限界、業者に切り替える基準でも詳しく書いているので、判断に迷う場合は読んでみてください。
デジタルデータリカバリー
累計50万件超の相談実績。最短即日で無料診断でき、復旧できなければ費用がかからない成功報酬制。まず可否と概算を確認したい人向け。
初期診断・見積もりは無料
業者に頼む場合の費用感と、選び方で疑ってほしいこと
水没によるデータ復旧の相場は、症状の重さでかなり幅があります。軽度(電源は入るが一部認識しない程度)なら3万円〜6万円くらい、基板の腐食が進んでいて分解・部品交換が必要な重度のケースだと10万円を超えることもあると言われています。これは業者や機種、ストレージの容量でも変わるので、あくまで目安として捉えてください。
正直なところ、水没案件は「開けてみないと分からない」部分が大きいです。だからこそ、電話やメールだけで「絶対直ります」「◯万円で確実に」と即答してくる業者には少し警戒した方がいいと僕は思っています。実際に機器を見てから診断・見積もりを出す、というプロセスを踏む業者の方が、僕の経験上は信頼できるところが多かったです。無料診断・無料見積もりを謳っているところで、まず現物を見てもらって金額を確認する。そのうえで金額が合わなければ断る、という進め方で問題ありません。
G・O・G 会員制パソコンサポート
PC・スマホ・タブレットのトラブルを電話や訪問でサポートしてくれる会員制サービス。データ以外のパソコンの困りごとが続く人向け。
全国対応/個人・法人プランあり
「データが戻らなかったら料金はどうなるの」という不安もよく聞きますが、成功報酬型(復旧できなければ費用がかからない、または大幅に安くなる)を採用している業者もあるようです。契約前にこの部分は必ず確認してください。
FIREBIRD(iPhone基板修理)
水没・起動不良・リンゴループなど、iPhoneの基板レベルの故障からデータを取り出す専門サービス。他店で断られた端末の相談もできる。
FIREBIRD iPhone基板修理・データ復旧(無料相談)
修理・復旧の可否は無料相談で確認できます
僕がこの手の相談で一番伝えたいこと
水没トラブルの厄介なところは、こぼした瞬間は無事に見えても、数日後、数週間後にじわじわ症状が出てくることがある点です。だから「今動いているから大丈夫」と安心しきらずに、大事なデータは動くうちにバックアップを取っておく、これに尽きます。
僕自身、昔ノートPCの上でうっかり缶コーヒーを倒してしまったことがあって、その時は幸い蓋が半分閉まっていて被害は最小限でしたが、それでもキーボードの数字キーがしばらく反応悪くなりました。液体って、思っている以上に隙間から入り込むんですよね。あの時の冷や汗は今でも覚えています。
必ず直る、とは僕の立場では言えません。ケースによって症状も進行具合も本当にバラバラだからです。ただ、慌てて電源を入れ直したりドライヤーで炙ったりせず、まず切って、乾かして、それから判断する。この順番さえ守れれば、今できる中では一番いい初動になっているはずです。今夜のところは、まずPCを逆さに開いて、静かな場所に置いてあげてください。判断はそのあとで大丈夫です。
症状が違うなら、こちらを読む
自分で試していい状態と、今すぐ手を止める状態
症状が違えば初動も違う。以下は全記事共通の線引きである。迷ったら通電を止める側を選ぶ。
自分で試してよい(下の全てに当てはまる場合のみ)
- 異音がしない。カチカチ・ジジジ・カラカラいずれも鳴っていない
- 焦げ臭くない。煙は出ていない
- 水に濡れていない。落下させていない
- 機器自体はパソコンから見えている(認識はする)
今すぐ電源を切り、通電をやめる(一つでも当てはまるなら)
- カチカチ・ジジジ・カラカラなどの異音がする
- 焦げ臭い。煙が出た。基板が変色している
- 水没した。湿っている(乾かす目的でも通電しない)
- 落下・衝撃のあとに認識しなくなった
- RAID/NASでリビルドに失敗した
この状態でやってはいけない操作
- 再起動と抜き差しの繰り返し。通電のたびに状態は悪くなる
- chkdsk・フォーマット・修復ツールの実行
- 元の機器への上書き保存・復元先に元の機器を指定すること
復旧の可否は状態次第であり、可否も費用も診断しないと分からない。ここで保証はしない。
判断のもとにしている公的な情報源
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この記事を書いた人
真壁
データ復旧たすけ隊編集長 / 元フィールドエンジニア25年
メーカーのフィールドエンジニアを25年。工場や病院のサーバ室で、止まった機械と青ざめた担当者を前にしてきた。現場で学んだのは一つ。壊れた機械より、慌てた人間の操作のほうがデータを殺す。再起動、抜き差し、通電したままの放置。良かれと思ってやる操作で、戻ったはずのデータが戻らなくなる。だからここでは、理由より先に「今すぐやめること」を書く。復旧の保証はしない。悪化させない手順だけは断定する。
